2015年4月30日木曜日

ECMトークイベント

池袋は西口のエソラに新しくHMVがリニューアルオープン、そこでECMレーベルについてのトークイベントが行われるとのことで聞いてきました。

エソラは池袋駅西口から歩いて数分、その3階に新しいHMVが入っているのでとても便利です。ただ、今回初めて行ったのですがビル自体も入ってる店舗も思いのほかオシャレな雰囲気を漂わせており、デニムに黒パーカーなんていう雑な格好で行くとぼくのように若干のアウェイ感を覚えるかもしれません。ここら辺は池袋東口でニコ生と同居している黄色いCD屋さんと差別化を図っているのでしょう。

イベントは「ECMカタログ再発記念トークイベント」ということで、ECMの45周年を記念した再発シリーズの第2弾「ECM For Tomorrow II」を軸に話が進みます。参加者はディスクガイド『Quiet Corner』を手掛ける山本勇樹さん、『Jazz The New Chapter』監修の柳樂光隆さん、そしてこの再発を手掛けたユニバーサルジャズの斉藤嘉久さんの3人。


斉藤さんによると今回の再発シリーズではECMの45年間を俯瞰し、いま注目のミュージシャンの初期作からこれからのECMを予感させる作品までをカタログに加えていったとのこと。それを受けて柳樂さんは「単なる名盤選ではなくて、今の視点から再評価されているものも多く含まれていて良いセレクション」と切り出し、最近ではヴィジェイ・アイアーを筆頭にアメリカのミュージシャンも多くECMと契約していることを挙げて「今のECMを聴くことはそのままニューヨークの最先端を追うという部分もある」との指摘。ロバート・グラスパーらアフリカン・アメリカンが生み出すジャズとはまた違う新しいジャズをECMでは聴ける、と斉藤さんも同意。

ここでユニバーサル社員の斉藤さんがマンフレッド・アイヒャーと実際に会った時のエピソードを披露。詳しいビジネスの話はあまりせず、当時期待の若手だったアーロン・パークスやヴィジェイ・アイアーをとにかく日本で売り出してくれ、と言われたのが印象的だったとのこと。『Jazz The New Chapter 2』での若林恵さんによるアイヒャーへの電話インタビューに同席していた柳樂さんも、「アイヒャーはクールな写真のイメージとは違いよく喋るしドイツ人っぽいジョークも言う。情熱的でちょっとめんどくさい(笑)ようなところがある人」と続けます。

「ECM=アイヒャーみたいな語られ方をするし、ECMにはアイヒャーのこだわりが詰まっている。どんなミュージシャンもECMで録音するとECMの音になるし、そういうレーベルはあまり無いのでそこも魅力」とは山本さん。斉藤さんも「アイヒャーには独善的な部分もあるけど、それでもECMはとにかくアイヒャーの音楽」と。

アイヒャーのこだわりについて柳樂さんは少し視点をずらしてECMのジャケットの話に。「ECMの写真集が2冊でてるけど最高ですよね。ブルーノートとはまた違うし、ブルーノートにはダサい時期もあるけどECMには無い。かっこいいです」と。斉藤さんによると、アイヒャーは有名な写真家だからといってジャケを採用するわけではなく、ECMのジャケに使ってほしいと送られてくる世界中の写真家の作品から選んで決定するそうです。

また、ドイツのジャズフェスに招待されて帰国したばかりの柳樂さんはJAZZAHEADというイベントでECMのミュージシャンを観て来たそうです。

「ドイツのJAZZAHEADっていうイベントでECMナイトがあってECMのミュージシャンが4組出るんですけど、会場が歩いて行けないくらい遠い(笑)。ぼくはタクシーで行きましたもん。マティアス・アイクやヤコブ・ブロを観たけどすごい良くて。なんで遠かったかというと、ECMの音を鳴らせる会場でしかやりたくなかったんだと思う。エンジニアもミュージシャンと同じように紹介されていて、残響音とかもすごく綺麗でした。これがJAZZAHEADのメインステージで観たら、こんなに感動しなかったと思う。ECMにはそういう、ちょっと他の人に迷惑をかけてでも音を追求するところがある。」

斉藤さんによるとECMは都会のど真ん中にあるようなレコード会社ではなく、ミュンヘンのそれも郊外にあるそうです。そのちょっと外れた場所から独自の美学を追い求めているとのこと。

『Jazz The New Chapter 2』で大きくECMを取り上げた柳樂さんは「本のためにECMばかり500枚とか1000枚とか聴きましたけど、発見ありますよ。ヒットしたやつとかキース・ジャレットのヨーロピアンカルテットとか、ベタなやつでも発見があるし再評価できるところがある」と語っています。

そこで今回の再発シリーズから、柳樂さんと斉藤さんにオススメの作品を選んでもらうことに。

まず柳樂さんが挙げたのがスイスのピアニスト、ニック・ベルチュ(Nik Bartsch)の2010年作『Llyria』。「ミニマルミュージックを大事にしていて、ほとんどテクノみたいな感覚で聴けるジャズ。現代音楽っぽいピアノの反復とファンクっぽいエレベの反復が組み合わさったりしてすごく面白い。日本にも滞在経験のあるすごくインテリな人で、"反復することはただ繰り返すことじゃなくて、フレーズがマッサージされて変わっていくんだ"ということを言っていた。今のECMならイチオシです」と紹介。斉藤さんによるとニルス・ペッター・モルヴェルとニック・ベルチュがECMの2つの転換点となっており、それが今のヴィジェイ・アイアーにまで繋がるところがあるとのこと。

柳樂さんの2枚目はクレイグ・テイボーンの2012年作『Chants』。若手のミュージシャンにインタビューすることの多い柳樂さんによると、「尊敬するピアニストは?」という話題になると今の多くのミュージシャンがクレイグ・テイボーンと答えるそうです。『Chants』の前にリリースされたピアノソロ作も良かったと語る山本さんがテイボーンのリズムについて話を振ると「ニック・ベルチュと違うのは、少し黒い感覚が入るところ。かつヨーロッパの音楽の洗練された感じもあって。今のシーンで誰にも似てないっていう意味ではテイボーンが一番です」と柳樂さん。

続いて斉藤さんの1枚目はギタリスト、ラルフ・タウナーの1974年作『Solstice』。「ヤン・ガルバレクらヨーロッパとアメリカとの融合。全曲で緊張感がはんぱない。ドラムンベースとも通じる感覚で全く古くない」と斉藤さん。曲を聴いた柳樂さんも「これブレイクビーツですね。知らなかったです」と驚いたようす。

斉藤さんの2枚目はキース・ジャレットの1990年作『The Cure』。ここから話はキース・ジャレットが現代ジャズを語る上で欠かせないという話になります。ロバート・グラスパーもキースをフェイヴァリットに挙げ、多くのピアニストがまずキースを通った上で自分のオリジナリティを確立させようとしている、という話を柳樂さん。また、ヨーロッパでは特にキースの影響が強く、そういったアメリカっぽいブルースやゴスペルから自由になったジャズに非常に魅力を感じているとのこと。「黒くないジャズ」という話になったところで山本さんからも1枚、イタリアのピアニスト、ステファノ・ボラーニ『Piano Solo』からブライアン・ウィルソンのカバー曲を。

イベントも終盤、キース・ジャレットからヴィジェイ・アイアーまで語ったところで話はECMのこれからへ。特に注目すべきは2015年にリリースを控えるティグラン・ハマシャン。ジャズとアルメニア音楽とクワイアとを合わせた新作は特に期待が持てるとのことでした。

最後に斉藤さんからECMの新作の案内が。キース・ジャレットが世界中で行ったソロピアノを集めた新譜が出るそうで、そこに「あれは?咳で怒ったやつは入ってないの?」と茶々を入れる柳樂さん。「ドイツに行ったら"ジャパニーズはキース・ジャレットを怒らせたんだろ?"ってめっっちゃ言われたんだもん」。

というわけでがっつり1時間半近くに渡るトークが終了。ECMについて生でこんなに話を聞ける機会はなかなか無いので貴重な時間となりました。最後に山本さんが「最近はネットで音源を共有したりすることも増えますけど、こうやって直接お話をすることができてとても楽しかったです」ということを仰ってました。確かにオンラインでだいたのことは出来る時代だからこそ、こういうった生の機会をより大切にしていくべきかも知れません。

ちなみに当日かかった曲の音源を埋め込もうとしたらyoutubeには無かったり埋め込み不可だったりしたので(それもまたECMらしいと言うか…)、気になったミュージシャンがいたらぜひ探してみてください。ぼくはまず音源を持っていながらあまり聴いていなかったニック・ベルチュの『Llyria』を改めて聴き直していこうと思っています。


2015年2月23日月曜日

音楽と映画の素敵な関係

第87回アカデミー賞授賞式で話題になったのが、ジョン・レジェンドとコモンのパフォーマンス。1960年代アメリカの公民権運動を題材にした映画『Selma』の主題歌"Glory"は、"One day..."と繰り返すフックがキング牧師の演説を思い起こさせる壮大な楽曲です。

 

ラップが入った楽曲の受賞はエミネム"Lose Yourself"、スリー6マフィア"It's Hard Out Here For A Pimp"に続いて3度目とのこと。ジョン・レジェンドは昨年のアカデミー賞作品賞を受賞した『それでも夜は明ける』のサウンドトラックのプロデューサーも務めており、2年連続の栄誉となります。

ここで共演している二人はカニエ・ウェストを介して共演を重ねており、カニエが監修しジョンが2曲に参加したコモンのアルバム『Be』は彼の代表作。また、コモンはコンシャスな(意識的な、転じて政治的・社会的なトピックを歌詞に織り込む)MCとして知られており、この曲中ではファーガソン事件に言及したり、以前にも映画『フリーダム・ライターズ』用にキング牧師の演説をサンプリングした"A Dream"という曲を制作しています。近年ではジャズ・ピアニストのロバート・グラスパーの"I Stand Alone"に客演し、ジャズ・リスナーの間でも注目を集めている印象です。

そしてこの映画『Selma』で音楽を担当しているのが、ロバート・グラスパーと同じレーベル、ブルーノートに所属しているピアニストのジェイソン・モラン。ジャズ側からヒップホップにアプローチしていたブルックリン周辺のミュージシャンとして90年代後半から活動を開始、アフリカ・バンバータの"Planet Rock"をカバーしていたりします。映画音楽を全面的に手掛けるのはモランにとっても今回が初の試みで、リリース済みのサウンドトラックではアルバムの最後に3曲、モランのピアノにオーケストラを組み合わせた楽曲が収録されています。『Selma』は日本では6月公開となっていますが、映画を観る際はぜひジェイソン・モランの音楽にも注目してみてください。

モラン自身の最新作『All Rise』は1920〜30年代に活躍したピアニスト、ファッツ・ウォーラーに捧げたアルバムです。ともすれば難解な"ジャズ"のイメージをぶち壊して"パーティ・ミュージックとしてのジャズ"を取り戻す内容になっており、これを機に少しでも多くの人に聴かれてほしいところです。





また、今回のアカデミー賞で作品賞・監督賞など4部門を制覇した『バードマン』、こちらの音楽を担当しているのもジャズミュージシャンであるアントニオ・サンチェスです。今年で45歳を迎えるサンチェスは大御所ギタリスト、パット・メセニーのバンドのドラムを務めていることで有名であり、2014年はメセニー『Kin』、自身の最新作『Three Times Three』、そして『バードマン』のサウンドトラックをリリースしており、今もっとも充実しているミュージシャンのひとり。

このサントラ盤はなぜかオフィシャルでYoutubeにフル公開されていますが、全16曲というよりもサンチェスによる28分1曲のドラム組曲といった趣の攻めまくった内容です。




ジャズドラムといえば「ひたすら罵声を浴びせ、完璧な演奏を引き出すためには暴力も辞さない鬼教師…」とかいう狂ったストーリーで話題な映画『セッション』(原題が"Whiplash"ってのも凄い)が外せません。こちらも先のアカデミーで助演男優賞、録音賞、編集賞の3部門を獲得しています。音楽学校を舞台にしたこの映画がどれくらいリアリティあるものなのかはわかりませんが(ないだろ…)、近年のジャズ・シーンでドラマーが非常に大きな役割を果たしていることを考えるとちょうど良いタイミングでの公開と言えそうです。




これらの他にもロバート・グラスパーがマイルス・デイヴィスの伝記映画の音楽を手掛けるというニュースがあり、またジェイムス・ブラウンやジミ・ヘンドリクスの伝記映画もまもなく公開されます。また、カーアクション映画『ワイルド・スピード Sky Mission』のサントラはウィズ・カリーファ筆頭に多くのMCが参加する、R&B/ヒップホップのショーケース的な作りになっています。

監督としてはスパイク・リーの新作が公開を控えており、この映画の音楽制作に関して「ブルース・ホーンズビーが作曲しているが、彼の他にレコードレーベルと契約を交わしていないアーティスト達にツイッターやフェイスブックを通して楽曲を提供してもらった」と語っています。多くの無名ミュージシャンをフックアップした作品になっているようでこちらも楽しみです。アイス・キューブ主演の人気映画『バーバーショップ』の最新作ではスパイク・リーの従兄弟のマルコム・D・リーが監督を務めることも発表されており、こちらもサントラ含めて見逃せません。

ここまで見たように音楽と映画の素敵な関係が充実してきており、映画を通じて音楽を聴く/音楽を通して映画に触れるといった機会が今回のアカデミー賞をきっかけに少しでも増えるとより面白いのではないでしょうか。


2015年1月17日土曜日

いーぐる連続講演「ホレス・シルヴァー特集」

ジャズ喫茶・四谷いーぐるの今回の連続講演は、音楽ライター原田和典さんによる「ホレス・シルヴァー特集」でした。ちなみに原田さんは毎年1回目のいーぐる連続講演を担当されているようで、昨年はアート・ブレイキー特集を開催されていました。


1.Filthy McNasty [from Doin' The Thing] (1961年)

ホレス・シルヴァー(Horace Silver)は1928年コネチカット州生まれのピアニスト。父が西アフリカ・カーボベルデ育ちのポルトガル系、母はネイティヴ・アメリカンやアイリッシュの地も混じったアフリカン・アメリカン、という出自。ちなみに"Silver"というファミリーネームは、ポルトガル系によくある"Silva"(シルバ/シウバ)を英語っぽくしたものなんだとか。

原田さん作成の年表によると、1939年に父に連れられて行ったジミー・ランスフォードのライブに感激しジャズの虜になる、とあるので観客を楽しませるエンターテイナー志向はこの頃から?また、1940年代後半から、レスター・ヤングに憧れてテナーサックスを、バド・パウエルに憧れてピアノを始めたとのこと。その後は知っての通り、スタン・ゲッツやアート・ブレイキーとの共演を経てバンド・リーダーとして活躍します。

原田さんによると、1962年の1月ごろ、ちょうどホレス・シルヴァーは来日中で大手町サンケイホールでのライブやテレビ出演を精力的にこなしていたそうです。はがき1枚5円の時代に入場料1800円、とはいえ考えてみれば1ドル360円の時代、シルヴァーにとっては1人5ドルの超格安公演。ちなみにこの初来日には裏話があり、1959年に石原慎太郎(!)がパリでシルヴァーを観て感激、日本に呼ぶべきだと呼び屋さんに伝えると、パリからNYに飛んだ呼び屋さんがアート・ブレイキーを観てそっちを先に呼んじゃったとか。そこから数年たって待望のシルヴァー初来日。そんな当時の最新作『Doin' The Thing』から"Filthy McNasty"、それもモノクロ録音のオリジナル盤をお持ちいただいてのスタートになりました。

ライブ盤である『Doin' The Thing』の会場となったヴィレッジ・ゲイトはキャパ450人の大会場。現在のブルーノート東京が300人ほどなのでその大きさがわかります。その大人数の観客を盛り上げて、バンドが一体となって突き進んで行く演奏こそがシルヴァーの魅力とのこと。



2.Split Kick (Stan Getz Quartet) [from Split Kick] (1951年)
3.Split Kick (Art Blakey Quartet) [from A Night At Birdland vol.1] (1954年)

続いては聴き比べ。優秀なソングライターでもあるシルヴァーは、リーダーとしてバンドを率いる前から自らの曲が採用されていて、その代表が"Split Kick"。ウェストコースト・ジャズ全盛の1951年にスタン・ゲッツのバンドのメンバーとして演奏した"Split Kick"と、ハードバップの時代へと変わっていく1954年にアート・ブレイキーと演奏した"Split Kick"。たった3年の違いですが、当時のジャズが勢い良く変わっていく様を聴き取ることができます。


4.Sister Sadie [from Blowin' The Blues Away] (1959年)

ジャズ評論家時代の大橋巨泉が絶賛していたというのがこの曲だそう。当日の資料に原田さんは"1曲で3度おいしい"と書いていましたが、よく聴くとコーラスへの展開を毎回工夫してアレンジおり、作曲家としてのシルヴァーの力が現れています。また、ファンキー・ジャズの代名詞のように呼ばれるシルヴァーやキャノンボール・アダレイといったジャズメンは実は幼少の教会経験といったものが豊富なわけではなく、むしろ徹底して譜面の人だったという指摘がありました。


5.Nica's Dream [from Horace-Scope] (1960年)
6.Green With Envy (Grant Green) [from Green Street] (1961年)
7.Oye Negra (Noro Morales Y Su Orquesta) [from 78rpm Single] (1942年)
8.Swinging The Samba [from Finger Poppin'] (1959年)

作曲家としての宿命か、シルヴァーもまたパクりパクられといった話があるようで、前2曲はグラント・グリーンがシルヴァーの曲をパクっちゃったかもしれない例、後2曲はシルヴァーがラテンの名曲からパクったかもしれない例。グリーンに関してはまぁほぼパクリで替え歌みたいなノリ、シルヴァーの方は"インスパイアされた"くらいの表現でいいんじゃないかなといったところ。


9.Neurotico (Sergio Mendes) [from Voce Aida Nao Ouviu Nada!] (1964年)
10.Unknown Title [from Anthology] (private recording) (1969年)

シルヴァーはセルジオ・メンデスと相思相愛の仲だったようで、メンデスは"Nica's Dream"をカバーしたり自らを「ブラジルのホレス・シルヴァー」と名乗ったりもしていたそうです。ここではシルヴァーの曲は"Unknown Title"とされていますが、実際にはメンデスの"Neurotico"をカバーしたもの。録音は1969年ですが、当時まだ若手だったベニー・モウピン、ランディ・ブレッカー、ビリー・コブハムといったジャズメンをシルヴァーがいち早く起用していたことはこの日、初めて知りました。


11.Song For My Father [from Song For My Father] (1964年)

少し時代が戻ってシルヴァーの名作と名高い『Song For My Father』からタイトル曲。あまり並べられることはないですが、1964年という年はアルバート・アイラー『Spiritual Unity』、ジョン・コルトレーン『A Love Supreme』、エリック・ドルフィ『Out To Lunch』といった作品が録音された年でもあることを原田さんは指摘しており、その中にシルヴァーを置くとまた少し違った見え方がしてくる気がします。


12.Pscychedelic Sally [from Anthology] (private recording) (1968年)

今回の講演で最も驚いたのがこれ。ホレス・シルヴァーがサイケデリック?!バンド・メンバーはトランペットにビル・ハードマン、テナーサックスにベニー・モウピン、ベースにジョン・ウィリアムス、ドラムがビリー・コブハム。サイケデリックといってもフラワー・ムーヴメント的なことはやっていないのですが(特にシルヴァーはノー・ドラッグを貫いたそうです)、コブハムが叩くビートの上でモウピンがフリーに吹きまくっている強烈な曲。このあたりの音源の正規リリースが望まれます。


13.Togetherness [from Silver 'N Voices] (1976年)
14.I Got The Dancin' Blues [from Pencil Packin' Papa] (1994年)

ここでは作詞家としてのシルヴァーも見てみようということで、ボーカル入りの2曲。シルヴァーはこの時期、メッセージ性の強い楽曲に傾倒していたとのことで(あまりウケは良くなかったようですが)"Togetherness"はその表れ。メンバーは何気に豪華でトランペットにトム・ハレル、テナーサックスにボブ・バーグ、ベースにロン・カーター、ドラムにマイルスバンド休業中のアル・フォスター。5人からなるコーラス隊のうちの1人としてクレジットされているモニカ・マンシーニは、作曲家ヘンリー・マンシーニの娘だそう。後者の"I Got〜"は90年代の録音ということもあってメッセージ性は既に強くなく、普通のパーティソングといった印象。ただ、作詞作曲編曲の全てを還暦過ぎたシルヴァーがこなしているとのことで、その才は伝わってきます。


15.The Tokyo Blues [from private recording] (1987年)

先にシルヴァーがベニー・モウピンらをいち早く起用していたことを書きましたが、ここでは"先見の明が光る幻のクインテット"ということでそのメンバーはトランペットにデイヴ・ダグラス、アルトサックスにヴィンセント・ハーリング、ベースにブライアン・ブロムバーグ、ドラムにカール・バーネット。正規録音だけでは伝わり切らないシルヴァーの音楽が垣間見えてきますし、シルヴァーの奥さんの話では、シルヴァー自身、こういった若いメンバーと一緒に演奏することをとても楽しんでいたとのことです。また、タイトル通りシルヴァーは親日家だったそうで、デュッセルドルフかどこかのライブのMCでいかに日本が良かったかを延々と話している録音が残されているそうです(笑)。


16.The Gringo/Cool Eye [from Doin' The Thing] (1961年)

最後は『Doin' The Thing』に戻って締め。シルヴァーは、ジュニア・クックとブルー・ミチェルがいたこの頃のバンドが一番良かったと言われるのが嫌だったそうですが(まぁ音楽家としては当然ですが)、それでもこれが一番良いんだと原田さん。クックもミチェルも、ジャズを変革するような特別な才能を持った人ではなかったけれでも、シルヴァーが作った曲の中で最高のパフォーマンスを発揮しており、そこが魅力的だと。

この曲のクレジットをよく見ると、録音がMay 20 & 19,1961, Live At Village Gateとなっています。このヴィレッジ・ゲイトでのライブは1日3ステージ×19日と20日の2日間の計6ステージ分の録音からなっており、このマスターテイクは「20日の"The Gringo"」と「19日の"Cool Eye"」を巧妙に編集して繋いだものだそうです。一聴しただけではほぼわからずまるで一夜の演奏に聴こえますが、この事実に気づいた時、2日間同じように会場を盛り上げたシルヴァーと、その録音からアルバムを作り上げたブルーノートの底力を改めて実感したと原田さん。



というわけで以上の16曲で今回のホレス・シルヴァー特集はおしまいでした。セルジオ・メンデスの関係やシルヴァーのサイケデリック時代、そして『Doin' The Thing』の発見などなど、中身が濃く発見に満ちた3時間。原田さんは喋りが上手く、自身も人を楽しませるのが好きなんだなと伝わってくる方なので聴いているこちらも楽しくなります。年始一発目だけでなく、早めに次の講演が決まらないかな、と思っているところ。

2015年1月12日月曜日

Live: Zaz

【ZAZ @ 新宿タワーレコード・ミニライブ】

特にフレンチ・ポップを追っているというわけではないのですが、 数年前にNHKのフランス語講座でたまたま知ったこのZAZ(ザーズ)というシンガーには一聴して魅了されてしまいました。



少ししわがれた声と豊かな声量からちょっぴり古めかしいジャズとシャンソンを感じさせる楽曲を披露する姿はとても魅力的です。2013年に2ndアルバム『Recto Verso』、そして2014年に3rd『Paris』を立て続けにリリースした彼女は、本国フランスで一躍人気歌手に上り詰めたようです。

そんなZazが来日する!と知ったのが昨年末。しかし時、既に遅し、恵比寿での公演1回切りのチケットはソールドアウト。諦めかけていた時に知ったのが、今回の新宿タワーレコードでのミニライブです。3rdアルバムの国内盤(1/28発売)を前金予約でミニライブとサイン会に参加できるとのことで即決、ランダムの整理番号も16番と早めを引く幸運。そして恵比寿公演から2日経った1月12日がミニライブの日でした。

新宿タワレコの7階に設置されたイベントスペース自体はあまり大きくはないのですが、16番で入場してもほぼ最前列を確保できました。ステージから1メートルほど、もう本国フランスではこんな距離で観ることなんてできないんじゃないかという近さ。

この手のインストア・ライブにしては珍しく(?)、18時の予定時刻ちょうどに開演。明らかにあか抜けてきているZazに加え、ギター(イケメン)、ウッドベース(良い人そう)、キーボード/アコーディオン(トランペットの影に隠れて全然見えず)、トランペット/コルネット(気さくなおっちゃん)、ドラム(強面)の6人編成。

「こんにちは」などちょっとした日本語のMCもそこそこに、新作からの"Paris Sera Toujour Paris"から勢いよくスタート。



いかんせん新作をまだ聴けていないので曲名がわからなかったりしたのですが、2曲目は「エディット・ピアフの曲で、とても美しいシャンソンです」と紹介していました。(あれ、1st収録の"Dans Ma Rue"だっけ?曖昧です…)

生で見て驚いたのはやっぱりZazの声量。間奏でマイクを外してスキャットするシーンが何度も見られたのですが、他の楽器にかき消されることなく響きわたる声の力がZAZの一番の武器であり魅力であると再確認。

新作からの曲を中心に3曲ほど、過去曲はやらないのかなぁと思っていたところに2ndアルバムでも最もノリの良い"Comme ci, comme ça"が!



おフランス・クラスタだからかちょっとおとなしめだったオーディエンスもこれで火がつき、狭いスペースで体を動かして踊ってみたり手拍子が続いたりと盛り上がり、ラストを飾る"Je Veux"(Zazのデビューシングル。この記事の一番上に貼った曲です)では、"お金よりも愛や喜びが大事"と伝えるサビをみんなで繰り返し合唱。インストア・ライブとは思えないほどの盛り上がりで〆。


ライブ後のサイン会では挙動不審になりながらもフランス語で会話して"あなたの声と音楽が大好きです"と伝えることに成功、握手もしてもらいました。(他の人のも見てたけど、握手する時は必ず両手を出してくれるんだよね。日本で言うならアイドルか政治家かってくらいの丁寧な握手でした。)直接お話したZazはステージ上と何ら変わらず、表情が豊かでとても気さく。美人っていうわけではないけど生命力が溢れて惹き付けられる、素敵なお姉さまでした。

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ストリート・ライブでやった"Je Veux"の映像の印象が強すぎたせいかあのしゃがれ声のせいか、はたまた"エディット・ピアフの再来"というコピーのせいか、今の今までZazのことを路上から叩き上げのシンガーだと思っていたけど全く違ったことが発覚。幼いころからコンセルヴァトワールで徹底的に音楽を学んだ超エリートじゃないですか。少しくらいちゃんと調べなければいけません。。。今回の来日に合わせたインタビューが雑誌『ふらんす』に掲載予定とのことなので、そちらは必見ということで。。。


2015年1月11日日曜日

ジャズ喫茶巡り: 原宿Jazz Union

【原宿・Jazz Union】
2014年の秋ごろだったか、「原宿にジャズ喫茶ができる!」という情報をTwitterでちらほら見かけるようになりました。ただでさえ、原宿に?ジャズ喫茶??というミスマッチ具合が気になるのに、「コンテンポラリー・ジャズの新譜800枚を毎月入れ替えてかけるらしい」と聞いたら行かないわけにはいきません。

(ちなみに、この店名と新譜入れ替えという大胆な運営から当初はディスクユニオンが手掛けてるんじゃないかとも言われていましたが、実際は関係ないようです。)

さて、JR原宿駅に降り立ち、奇抜な格好をした人たちをやりすごしつつ表参道を東へ進みます。駅に近いかと思ったらそんなこともなく、明治通りを少し超えたところにあるローソンを左折。さらに数分進むと左手にこんな看板と建物が。


JRの原宿駅からは15分ほどかかったので、利用可能ならメトロの神宮前駅か表参道駅のほうが近いかも知れません。それにしてもインパクトのある外装のビルなので、表参道のローソンまで来たら迷うことはないはず。こちらのビルの、ツタに覆われた螺旋階段をのぼって2階が今回の目的地、Jazz Unionです。

(ちなみにこのビルの右へ入っていくと空き地の駐車場になっており、綺麗な三毛猫さんに出会うことができました。猫好きの方はぜひ寄り道してみてください。)

階段をのぼると黒くて大きな鉄の扉が。ちょっと気圧されながらも扉を開けると、黒で統一された壁に、低めのテーブルとソファ、そして左手正面には真空管アンプを備えたサウンドシステム。灯りも間接照明のシックな店内はジャズ喫茶というよりはバーといったほうが近いです。(ただ、営業時間は19時迄の模様。)

プレオープン期間中ということもあってかメニューはコーヒーやハーブティーなどドリンク類のみ。その代わり食べ物の持ち込みが自由とのことなので、今回は渋谷のチーズタルト専門店パブロに寄ってからカフェオレ(たしか700円ほど)と一緒にいただきました。

さて、気になる新譜ですが、出入り口すぐ横のCDラックに全て収めれおり、自由に見ることができました。お店のTwitterを見ると1月9日に全てCDを入れ替えているようです。棚に発見したのはキース・ジャレットの発掘ライブ盤『Hanburg 72』やビル・フリゼールの新作『Guitar In The Space Age』、話題のコンピ盤『Quiet Corner』、ケティル・ビヨルンスタを初めとしてECMも取り揃っています。日本のジャズも意識してスペースを割いているようで、上原ひろみ『Alive』はもちろん、原雅明さんの新レーベルからリリースされた鈴木勲×DJケンセイ『New Alchemy』まで置いているのにはびっくり。スタッフさんに「中のライナー読みたいんですけど…」と聞くと気軽にOKしてくれました。CDラックの一番下には『Jazz The New Chapter』と『Jazz 100年』が。

滞在中は"ジャズ"を聴きにきているような他のお客さんもいらしたので、バランスをとって以前から気になっていたジョナサン・ブレイク『Gone But Not Forgotten』をリクエスト。クリス・ポッターとマーク・ターナーの二人のテナーサックスがフロントをつとめたピアノレスカルテット。お店自体があまり大きくないので音量は控えめですが、リクエストした盤がかかるとスタッフさんが音量を大きめにしてくれたので心遣いを感じました。

チーズタルトを食べつつ2時間ほど滞在してしまったので、僕の後に入ってきたお客さんがドクター・ジョンのルイ・アームストロング・トリビュート盤『Ske-Dat-DeDat』をリクエストしたタイミングでお会計。(てかそんなアルバムも置いてあったのか!)

いまのところかける音源はすべてCDのようですがレコードプレイヤーも置いてあったり、ソファの隙間にハービー・ハンコックのポスターがあったり、食事メニューも含めて本格オープンに向けてまだまだ変わっていくのかも知れません。

Jazz Union: http://www.odm.co.jp/jazzunion/

2015年1月2日金曜日

ジャズ喫茶巡り: 西荻窪JUHA〜中野ロンパーチッチ

年が明けて2015年1月2日。初詣も一段落したこの日は午後から予定がなく、家でゆっくりしようと思っていたところにジャズ研ジャズ喫茶部さんのこのTweet。急遽予定を変更して、この2軒のジャズ喫茶部を巡ってみることにしました。



【西荻窪・JUHA】
まず向かったのが西荻窪のJUHA(ユハ)。一風変わった店名は、フィンランド映画の巨匠、アキ・カウリスマキの作品から取られているとのこと。

中央線沿いの街にはあまり縁がなく、荻窪のベルベットサンに数回行ったことがある程度だったので西荻窪で降りるのはもちろん初めて。ただ、地図を見るとJUHAは通りに面したわかりやす場所にあるようです。

駅の南口を出て左に進むとみずほ銀行がある大通りにぶつかります。そこを通り沿いにひたすら南下していくと、歩いて5分もしないうちに通りの左手にお洒落な外観のJUHAが見えてきます。



ちょっと錆びて使い込んでる感じがする鉄の扉を開けると、白が基調の暖かみのある店内。左手すぐにスピーカーがありその向かいにテーブル席、右手奥にターンテーブルがありキッチンを囲むようにカウンター席になっています。

カウンター席には先客がいらしたので、スピーカー正面のテーブル席へ。店内を軽く見回すと、店名にもなったカウリスマキ映画の大きなポスターが2つ貼られていて、他のジャズ喫茶とは異なった雰囲気の空間です。

コーヒーはブレンドが2種類ほどあって520円。コーヒーカップは白くて丸っこい可愛らしいものでした。他にもケーキなどの食事メニューもあったのですが、遅めのお昼を食べたばかりだったのでコーヒーだけをいただきました。

1時間ほどの滞在でかかったアルバムは以下の3枚。すべてLPで再生されていました。
チェット・ベイカー『Jazz At Ann Arbor』
スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト『#2』
ジェレミー・スタイグ『Flute Fever』

ゴリゴリのハードバップではなく落ち着いた演奏が多めで店内の雰囲気ともマッチしていました。ジェレミー・スタイグはビル・エヴァンスとの共演盤しか知らなかったのでリーダー作を聴いたのは初めて。『Flute Fever』は熱い演奏でしたがリーダーがフルートなのもあって暑苦しくはなく、ゲッツ・ジルベルトからの流れを上手くジャズに引き戻していました。


【中野・ロンパーチッチ】
ついつい長居しそうになるJUHAを名残惜しみながら出発して次は中野のロンパーチッチへ。中野駅の北口から出て通りをそのまま北へ向います。途中、『Jazz The New Chapter』を20冊以上売った店員さんがいることでも話題のあおい書店中野本店を左手に見つつさらに北上。新井五差路の3本手前のファミリーマートを右に曲がると、ビルの1階にテラス風の作りで外からも店内を見渡せるお店が。通りからもジャズが漏れ聴こえてくるこのお店がロンパーチッチでした。(着いた時には既に日が暮れてしまっていたので外観の写真はありません…)

向かって左側がキッチンでその右がカウンター席に。右手奥にスピーカーがあり、壁沿いにテーブル席。本棚が2カ所あり、『Jazz The New Chapter』や『Jazz 100の扉』などの新しめの本から油井正一先生の著書まで一通りそろっています。本が二重に差してあり全部は見れなかったので、探せば珍しい本もあったかも?

頼んだのはコーヒーとチーズケーキ(合わせて860円ほど)でしたが、他にもペンネやトーストなど食べ物も充実しているようです。それにしてもそのチーズケーキ、味覚音痴気味のぼくでもわかるくらいに美味しかったのですが、それもそのはず、ロンパーチッチは料理が美味しいことでも有名なお店のようです。


ロンパーチッチには2時間ほど滞在。こちらも落ち着いてゆっくりできるお店です。かかったアルバムは以下の通り。こちらもすべてLPでした。
ジョージ・マッソ『Pieces Of Eight』
ワーン・マーシュ『All Music』
ドン・ランディ・トリオ+1『At The Baked Potato』
ケニー・クラーク&フランシー・ボラン・ビッグバンド『Our Kinda Strauss』
チャーリー・ヘイデン&ジョン・テイラー『Nightfall』
ダスコ・ゴイコヴィッチ『Belgrade Blues』
タビー・ヘイズ『For Members Only』

白人〜ヨーロッパが多めですが、その中でも演奏力とガッツのあるジャズを選んでる印象です。ホームページに「会話は小声でお願いしています」と書いてある通り音はけっこう大きめ。お客さんもがっつりジャズを聴きに来ているようなおじさんから1人の時間を使いにきている女性まで、"お洒落なカフェ"と"ガチなジャズ喫茶"を高いレベルで両立させている感じを受けました。1月2日にも関わらず常連っぽい方々が入れ替わりいらしていたので、しっかりと支持を受けていることが伝わってくるお店でした。

・JUHA: http://www.juha-coffee.com/
・ロンパーチッチ: http://www.rompercicci.com/

2014年10月8日水曜日

ジャズ喫茶日記5

ここでは、いまどき珍しくもありつつ復活しつつもあるジャズ喫茶という場で日々店番をしながら見つけたジャズの良盤を少しずつ紹介していきます。

僕が働くジャズ喫茶ではアルバムを全ては流さず、LP片面、CDでもそれ相当の約20分前後ずつかけていきます。今の時代にあえてLP片面ずつ聴いていくことで新しく見えてくる良さもある気がするので、ここでもそれに倣っていこうと思います。


【オリバー・ネルソン『Screamin' The Blues』A面】


レコードをジャケットから取り出し、ターンテーブルにのせて針を落とす。その瞬間から溢れ出す強烈なブルース。"Screamin' The Blues"というタイトルそのままに、ブラックミュージックとしてのジャズを全面に感じさせるこのフィーリングこそがこのアルバムを貫く魅力の1つです。

このオリバー・ネルソンという人はとにかく『The Blues And The Abstract Truth』という作品で有名のようですが、お店でこのアルバムのほうがかかるのはこの冒頭のタイトル曲が一気に耳を奪えるからかも知れません。

ただ、こうした"臭すぎる"楽曲は初めのインパクトこそ強くても得てして飽きやすかったりもするもの。このアルバムがそんな罠から逃れられているのには2つの理由がありそうです。

1つめはネルソンの資質。1932年セントルイス生まれのネルソンですが、サックス奏者兼編曲家として活動した後に海軍入隊、除隊後はワシントン大学とリンカーン大学で音楽理論を学ぶ、と当時のアフリカ系アメリカ人としては相当のインテリ。またジャズシーンではサックス奏者としてよりも編曲家としてのほうが知られているようで、クインシー・ジョーンズと比較された時期もあったとか。よく聴けばこのアルバムも、強烈なブルース・フィーリングを支えるようにしっかりと構成されていることがわかります。

2つめはエリック・ドルフィの参加。ネルソンがブルース臭をまき散らす一方でドルフィはバスクラリネットを用いてそれとは似ても似つかない独自のフレーズでソロを組み立てていき、11分の演奏であるタイトル曲の半ばで上手くアクセントをつけています。フリー寄りのミュージシャンと見られるドルフィですが、もともとは音楽理論に精通した"楽譜を読める"スタジオ・ミュージシャン。ネルソンの意図をよく汲んだ上での演奏と見ていいのではないでしょうか。

つづく2曲目の"March On, March On"ではマーチングのリズムに乗って矢継ぎ早にソロを回していきます。楽天的な雰囲気になりがちなマーチング曲ですが、イントロとアウトロでベースのジョージ・デゥヴィヴィエが繰り出す危なげ/怪しげなフレーズが全体を支配しています。

ラストの"The Drive"はアップテンポのスムースな4ビート・ジャズ。ネルソンとドルフィに挟まれて影が薄くなりがちですが、この曲ではトランペットのリチャード・ウィリアムスが突き刺すような快演。ソロが回るにつれてロイ・ヘインズのドラムも徐々に熱がこもっていくのも聴きどころ。

検索してみても、オリバー・ネルソン自体があまり出てこない上にだいたがいが『The Blues And The Abstract Truth』の話。「エリック・ドルフィのファン以外には忘れられたアルバム」とも書かれていたこの作品ですので、ジャズ喫茶に行った際にはぜひリクエストしてみてください。



personnel;
Oliver Nelson[alto sax, tenor sax]
Eric Dolphy [bass clarinet, alto sax]
Richard Williams [trumpet]
Richard Wyans [piano]
George Duvivier [bass]
Roy Haynes [drums]